精密機械部品加工の製造、自動化による24時間操業体制により生産性の向上と作業環境を確立し、多種多様な市場ニーズに対応する精密機械部品加工メーカー日伸産業株式会社。

高齢者の転倒の要因と評価

はじめに

高齢者の転倒の要因は様々あります。転倒要因は、おおまかに3つに分けられ、身体的因子、環境因子、心理的因子が挙げられます。要介護要因の第3位が転倒であることから転倒を予防することは大変重要ですので、それぞれの立場からの効果的なアプローチが必要となります。その中でもここでは、身体的要因に着目します。

身体的要因の中には、例えば、目(視覚)、聴覚(三半規管などの迷走系)、神経の伝導速度の低下(筋神経機能の低下)、反射速度の低下などが挙げられます。そして、運動などで機能の改善が可能であり、転倒予防に特に期待されているものに、下肢筋力、バランス機能、歩行能力があります。 その中でもここでは、下肢筋力に着目します。

下肢筋力を評価・推定する方法には、大掛かりな装置が必要だったり、10m歩行など簡便ですが、下肢筋力を推定するには不十分な手法が用いられてきました。また、"階段の上り下りが楽になった"、"1kmくらい歩けるようになった"などの主観評価が用いられてきました。主観評価はもちろん重要ですから、評価指標の1つとして加えるべきです。しかし、定量的な指標を加えなければ、主観評価は生きてきません。転倒予防を目指す、特に、転倒予防により健康支援・保険費用の削減を推進する立場にある人は、身体的立場からの定量的指標、対象者の心理的立場から本人の主観評価に考慮し、戦略的なアプローチを計画し、運動やセルフケアを快適かつ継続できるよう誘導する必要があります。

評価の狙いと下肢筋力の加齢変化

ここで必要なキーワードは、「継続」「快適」「評価」「エビデンス」だと考えます。楽しくて、快適だから継続してやりたい。しかも、自分の活動に対する評価もできる。その上、いつまでも元気に活動ができるとなれば、多くの高齢者は積極的に参加するでしょう。もちろん出てこない高齢者をひっぱり出すきっかけに使うこともできます。評価の位置づけは、以下の点が挙げられます。

・ 高齢者本人が自身の身体機能について知る
・ 知ったことで行動を起こす行動変容のきっかけとなる
・ 自分の活動がどの程度効果があったのかを知ることができる
・ 実施する側は、自分達の活動の効果と経済的効果を計算できる

"測定をしてみたけど、自分は標準的なの?"ということはよく聞かれます。これは高齢者だけではなく、子供や大学生などみんなが思う疑問です。そこで、足指力の年齢別の結果を図1に示し、年齢構成を表1に示します。このように男性の青年層(17~44歳)は左右ともに約6kgfなのが、中年層(45~64歳)になると左足が低下してきます。そして、高齢者層(前期・後期高齢者)になると極端に低下することとなります。女性でも同様の結果が認められます。このように確かに下肢筋力は加齢により低下することが明らかになりました。

この結果からは、下肢筋力を低下させないためには、中年層の50歳くらいからアプローチし、筋力アップと足部のケアが必要になることが推察されます。

下肢機能に影響を与える足部、足爪の問題

本HPの高齢者の足部でも紹介しましたが、高齢者を含め、大変多くの人の足部に問題を抱えています。ここではその現状の一例を紹介します。
図2の(a)は足拇指爪の変色、(b)は足拇指爪の脱落、(c)は外反母趾による足第2指の浮き指、(d)は足拇指の肥厚と巻き爪です。こうなる原因と対処方法は別の機会にゆずるとして、図2で示した足部や足爪の問題は身体機能にどのような影響があるのでしょうか?

ここでは介護予防に重要な転倒予防に着目するために、下肢筋力とバランス機能への影響について検討します。対象者はデイサービスセンターに通う高齢女性82名(平均年齢81.4±6.1歳)です。すべての対象者は自立歩行が可能であり、車いすや寝たきり者は含まれていません.事前の調査より、現有疾患について心疾患および脳血管疾患を経験した対象者は含まれていないことがわかっており、医療行為が必要なほどの動脈硬化や血管疾患を有している対象者は含まれていません。

足部、足爪の問題による、下肢筋力への影響

対象者の足部や足爪の問題は表2のように分類し、その結果、肥厚や変形・変色などの足爪の問題は15名で全体の18 %に当てはまりました。外反母趾は26名で32 %、O脚は25名で全体の中の30 %に当てはまりました。つまり、足部や足爪に問題のある人は全体の6割であることがわかりました。

以下では表2の評価結果にしたがって、計測結果である下肢筋力とバランス機能を検討します。

図3より下肢筋力は、足部や足爪に問題のない正常群と比べて足爪問題群と外反母趾群では約30 %、O脚群では約35 %低いことがわかりました。つまり足部や足爪に問題があることは極端に下肢筋力を低下させるといえます。
足部および足爪の問題がどのように下肢筋力に影響をおよぼすかを考えると、足爪の問題、すなわち、足爪が厚くなる肥厚や痛みを伴う陥入爪などは触覚の感度を著しく低下させることが考えられます。
外反母趾やO脚は、足指部の骨格構造の変形、横中足靭帯の弛緩、膝・股関節や頸骨などの形態異常により発生するため、それに付随する筋構造も変化します。筋機能の構造変化は、筋発揮が正常になされない可能性があるとともに、足拇指の動作範囲の著しい制限につながることが考えられます。さらに、足指力は下腿の筋、特に"すね"の部分の筋である前脛骨筋などに大きく関与します。足の指を上に反り返らせ、すねの部分を触ると、前脛骨筋が盛り上がるのを実感できます。前脛骨筋の低下は、歩行時の蹴り出し力を減少させ、遊脚期(歩行中の足が浮いている期間)のつま先位置が下がり「ひっかかり」を誘発し、転倒誘発の可能性を増加させます。

足部・足爪による片足立ちへの影響

図4に足部・足爪に問題がある人の開眼片足立ちの結果を示しました。開眼片足立ちの実験は、30秒間行いましたが、その間でバランスを崩した場合には足をつくことを許可しました。しかし足をついてしまったら、またすぐ足を上げるよう指示しました。図中の開眼片足立ちの最大持続時間は、片足立ちを30秒間行う中で最も足を上げていられた時間で、足をついた回数は30秒間のうちの足をついた回数です。

その結果片足立ちの最大持続時間では、正常群に比べて足爪問題群では64 %、外反母趾群では56 %、O脚群では57 %低いことがわかりました。つまり、足部や足爪に問題があると姿勢を制御する機能、つまりバランス機能(片足で姿勢を維持する下肢筋力を含む)が、約60 %低下していることが示唆されました。30秒間のうちの足をつく回数では、正常群が約2回であるのに対し、足爪問題常群、外反母趾群、O脚群ともに5回以上でした。一般に30秒間に足をつく回数は2回以下とされています。このことからも足部や足爪に問題あることでバランス機能に影響をおよぼすことがわかりました。
足爪に問題がある人は、痛みや重心が不安定なためにつま先に十分な荷重ができないことが推測できます。このことは図5に示したように、片足立ちや歩行時に、足の指が地面につかない人が多いことからもうかがえます。

本研究のこれまでの調査から、足の指が地面に5本ともつく人は全体の2割であり、足の指が全くつかない人は全体の1割であることがわかりました。つまり高齢者全体の8割は足の指が十分に機能していないのです。当然、足指が地面に接地しないと、体の重心位置を最適な位置にコントロールすることは難しいと考えられます。このような理由から、足爪に問題があり、足指の柔軟性が低下することがバランス機能を低下させる原因だと考えられます。
また足部や膝部の構造の変化があることは、運動力学の観点から効率のよい姿勢を維持できず、姿勢を維持するために余計な力が必要となります。以上の結果から、足部や足爪に問題があることでバランス機能が低下し、転倒誘発の可能性が高まるといえます。

足部や足爪の問題と転倒発生率の関係

次に足部や足爪に問題がある人に、過去1年間の転倒歴と転倒に対する恐怖心について聞き取り調査をしました。結果を表3に示します。一般的に1年間の転倒発生率は高齢者全体の2割程度が経験し、年齢とともに転倒率は増加すると報告されています。それに対し、足爪に問題がある人の転倒発生率は46%、外反母趾では50%、O脚では37%であることがわかりました。つまり、足部や足爪に問題があることで、正常な人の倍以上の割合で転倒を経験していることを示しています。

そして、足部や足爪に問題があることで30%以上の人が転倒に対する恐怖感があると回答しました。1度転倒を経験すると転倒に対する恐怖心と自分の身体機能への自信喪失から外出をさけるようになります。これを転倒後症候群と言います。転倒後症候群は、閉じこもりを誘発するとともに、ADL(日常生活動作)を低下させ、身体機能を極端に低下させます。身体機能が低下すれば転倒リスクが高まり、閉じこもることで生きがいを喪失するという悪循環に陥ります。

以上より、下肢機能に影響を与える足部・足爪の問題との関係と合わせて、下肢筋力、バランス機能、転倒経験という観点から、足部や足爪に異常があることで、下肢機能を低下させ、転倒リスクを高めている可能性が明らかになりました。

おわりに

足部や足指に問題があることは身体機能を低下させることがわかり、転倒リスクを高めていることが示唆されました。自立して健康な生活をおくるためには、歩行機能を確保することが重要です。これまでの自治体や施設などの試みでは、運動を実施し「10mを何秒で歩けるようになった」、「踏み台昇降を何回できるようになった」などで身体機能を推定してきたと思います。これは下肢筋力とバランス機能向上させることを目的に行ったものだと思います。もちろん運動をすることは体によいことですので、危険のない範囲でどんどん実施してもらいたいと思います。これに付け加えて、足の指や爪、足自体にももっと関心を持ってください。どんなに下肢筋力が向上しても、地面に直接触れているのは足なのです。足の機能が十分でないと、力は適切に発揮されません。例えば、すばらしい大きなエンジンを積んだ車があっても、タイヤがパンクしていてはいい走りはできないのと同様です。

重要なのは、運動やフットケアを実施して「体によい」のと、「身体機能改善に効果がある」ことはまったく別の話だということを認識してもらいたいと思います。運動指導やフットケアを推進する人は、対象者の身体機能を定量的に測定・評価し、その人の生活スタイルに合わせることでより効果的に身体機能を向上させ、転倒を予防すべきです。これが効果のある介護予防の形であり、ここがポイントだと思います。特にフットケアをしてもらうことはとても気持ちがよいのです。対象者はフットケアを実施することで身体機能を向上させることを目的にせずとも、快適だからフットケアを受けたいと思うのです。この考え方が、「自立支援から快適支援へ」とつながるのだと考えます。

最後に快適を支援するとともに、より介護予防に効果のある手法を確立することが急務となっています。保健・福祉・医療・工学が連携することで効果のある介護予防が短期間に実現できます。このような話し合いの場を是非持たれてはいかがでしょうか?

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