山下和彦博士のコラム

山下博士のコラム

人間の体はつながっています。足に加わった力は膝や腰に影響をおよぼしますし、歩行は姿勢全体に影響します。つまり、足先のちょっとした痛みや怪我、巻き爪などが足部や足関節(足首の関節)、下腿に影響をおよぼすことになります。これまで足部の異常に対する足指力などの下肢機能やバランス機能に与える影響について述べてきました。

足の問題は一朝一夕で治るものではないし、歩行指導をちょっと受けただけで劇的に変化するものでもありません。そこで、靴や靴下、足底板は有効に活用するべきです。通常の歩行では、かかとから足が接地し、その足ががっちり地面を踏みしめます。この時、地面についている足は単脚支持(1本足で立っている)の状態です。そして体重が前面に移動し、もう1本の足がかかと接地する際に、後ろの足はけり出しを行うことで推進力が得られます。それを繰り返すことで人間は歩いています。

通常の歩行時にかかとに加わる力は体重の80~120%、走っている時には200%にまで達することがあります。年を取ってくる、または足部ががさがさで皮膚にハリがない人はかかと周辺や足裏の外側(足第5指側の側面)の脂肪層が崩れてきます。こうなってくると、歩行などの際にクッションの役割を果たす緩衝機能が低下してきますので、ますます、足関節や膝などに衝撃が加わります。

踵の皮膚ががさがさな状態

足部に加わる圧力分布

さらに踵を構成する脂肪層の部分が崩れてくると足部に加わる圧力分布も画像のように変化してきます。かかとはクッションの役目を果たさないので、関節や関節間の軟部組織に過度の力を加え、場合によっては障害のリスクを伴います。

そこで、靴などでカバーしてほしいのですが、クッション性のない靴を履くと、歩行などの衝撃を吸収できません。また、弾性のありすぎるものは、疲労しやすく、歩行を不安定にさせてしまいます。

靴で注意したいこと

  1. 甲の圧迫が適度であること
  2. 足指の付け根(中足指節関節)に合わせて靴が曲がること
  3. 足先に適度な隙間(1cm程度)があること
  4. かかとをしっかり包み込み衝撃を吸収してくれること
  5. アーチがねじれないこと
  6. アーチを適度に支えてくれて靴の中で足が前後にずれないこと

素足での歩行での足元を眺めていると、地面の蹴りだしの際に足指の付け根の部分で曲がっているのが確認できます。これが通常の歩行です。当然靴を履いてもそのように動作してほしいわけです。足指の付け根の中足指節関節は屈曲(指を握る方向)、伸展(指を反らす方向)、外転(外側に曲がる)、内転(内側に曲がる)が可能な関節です。つまり、動きの自由度が高いのです。これを阻害しないためには、②の靴の曲がり位置、③のつま先のスペースの余裕が重要です。

歩行は動的なものですから、動きを十分に考えなければなりません。したがって、甲がぶかぶかだったり、踵がゆるゆるなために、歩行のたびに、足が靴の中で前後に動いてしまうようではいけません。スキーをやった経験のある人ならわかるかと思いますが、ブーツが足に比べて大きいと滑っている際に足が前後に動きます。すると、ターンの際に荷重を加えても、うまく雪面に力が伝わらず、思ったように滑れません。歩行でも同様です。蹴りだした力がうまく地面に伝わるからこそ、思い通りに歩け、歩行中に膝が高く上がることになります。

ところで、歩行中に膝が過度に曲がっていることで膝の痛みが感じられる気がする人はいないでしょうか?膝の過伸展という状態です。膝の関節は一方には曲がりますが、膝を伸ばした状態以上に曲がりません。前方に膝が曲がる人は普通はいないと思います。それは関節の構造や筋肉、靭帯が曲がらないように機能しているからです。これらの機能が十分でないと逆方向に力が加わることになります。歩行は動的だと述べましたが、その際に、膝関節が伸びきっていたり、やや過伸展状態で踵が付いたりすると、膝は逆に折れる方向に力が加わります。これを繰り返すと膝に強い痛みを生じることになります。

これは正しい歩行や膝や大腿部の筋力を向上させることで改善しますが、注意が必要です。膝の痛みは運動を制限させるため、日常生活の活動を狭めてしまいます。よい歩行のためには、足部自体の機能向上やケアだけではなく、靴や靴下など周辺にも視野を広げる必要があります。また、膝の痛みなどを軽減するためにも、自分にあった歩き方などを積極的に取り入れることが重要です。自分にあった歩き方を知るためにはどうしたらよいのでしょうか?そのための計測システムも徐々に開発されつつあります。近いうちにご紹介したいと思います。

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